「全酒類卸売業免許」の基礎知識

お酒の免許申請

お酒の販売事業を行う中で、国内の酒類業者に対して、日本酒や焼酎を卸売したいといったケースがあるかもしれません。この記事では、日本酒や焼酎など全酒類を卸売できる全酒類卸売業免許について、特徴や、取得の難易度、申請方法について解説していきます。

目次

全酒類卸売業免許の特徴

その1 すべてのお酒を卸売りできる

全酒類卸売業免許はその名前の通り、すべてのお酒を卸売りできる免許です。他の卸売免許は、「果実酒、ウィスキー、スピリッツの卸売りに限る」、「自己が企画開発した銘柄または商標の酒類の卸売に限る」、「自己が輸出した酒類の卸売に限る」というふうにお酒の品目や、販売方法による条件が付されますが、全酒類卸売業免許にはそのような制限がありません。 

販売エリアにも制限が無く、国内外の酒類業者に卸売りが可能です。他の免許の範囲を広くカバーすることが出来るため、上位免許という見方も出来るでしょう。

免許の種類と販売できる品目

その2 取得の難易度が非常に高い

全酒類卸売業免許は、年度ごとに各都道府県の免許可能件数が設定されており、直近ではほとんどの県が1件、多くても3~6件となっています。毎年9月に抽選の申し込みを行い、希望者が多い場合は、10月に抽選が行われ審査順位を決定し、1番をひいた申請者から順に審査を受けることが出来ます。

なお、令和5年度の東京都の場合、免許可能件数1件に対して43件の申し込みがありました。審査を受けられる倍率が43倍と非常に狭き門となっています。しかし、一部の県では、抽選の申し込みが1件も無く、枠が空いているところもあるようですので、販売場の所在地にこだわりが無い場合は、枠が空いている都道府県に販売場を設けて申請することを検討すると良いでしょう。

枠が空いている場合は、6月末までに申請をする必要があります。(7月1日からは、翌年度の申請となり、抽選が必要になります。)

その他、申請者は、酒類業界の従事経験が10年(経営経験の場合は5年)以上あることや、年間の予定卸売数量が100kl(10万リットル)以上あることなど、高い条件が求められています。要件の詳細については後述いたします。

その3 抽選の申し込みは9月の1か月間だけ

全酒類卸売業免許は、申請枠が空いていない限り、いつでも申請が出来るわけではなく、毎年9月1日~9月30日の期間だけ抽選の申し込みを行うことが出来ます。申し込み方法の詳細は後述いたします。

申請が難しい場合は、他の卸免許で対応できないか検討しましょう

せっかく取得するならオールマイティな全酒類酒類卸売免許が欲しいと思われるのではないでしょうか。しかし、免許可能件数もあり、申請しても必ず取得できるものではありません。そのため、本当に全酒類卸売業免許が必要なのか、他の卸売業免許で対応できないのかということも先に検討してみると良いでしょう。

そこで、全酒類卸売業免許に近く、取得の難易度が下がる卸売業免許をいくつかご紹介します。

店頭販売酒類卸売業免許

店頭販売酒類卸売業免許は、「自己の会員である酒類販売業者に対し店頭において酒類を直接引き渡し、当該酒類を会員が持ち帰る方法によりすべてのお酒を卸売することができる」免許です。

①店舗型であること、②会員制であること、③会員が持ち帰る必要があることなどの条件はありますが、全酒類を卸売りできることが特徴です。

店頭販売酒類卸売業免許について 詳しくはこちらで解説しています。
→「店頭販売酒類卸売業免許の基礎知識

自己商標酒類卸売業免許

自己商標酒類卸売業免許は、自己が企画開発した商標または銘柄のお酒であれば、どの品目でも卸売することができます。品目(清酒、ビール、果実酒、ウィスキー等)には制限がありません。

自社のオリジナルの銘柄のお酒のみを卸売りする場合は、全酒類卸売業免許を取得する必要はなく、自己商標酒類卸売業免許で対応が可能です。

自己商標酒類卸売業免許について 詳しくはこちらで解説しています。
→『「自己商標酒類卸売業免許」の基礎知識

洋酒卸売業免許

洋酒卸売業免許は、洋酒(果実酒やウイスキー・ブランデー、発泡酒、リキュールなど)の品目に限り卸売できる免許です。

洋酒の範囲は以外に広く、清酒、焼酎、みりん、ビール以外はほぼ洋酒となりますので、清酒、焼酎、みりん、ビールはそこまで扱う予定が無いということであれば、無理をして全酒類卸売業免許を取得する必要は無く、洋酒卸売業免許で対応が可能です。

洋酒卸売業免許について 詳しくはこちらで解説しています。
→『「洋酒卸売業免許」の基礎知識
酒類販売業における品目についてはこちらで解説しています。
→『お酒の免許申請における「酒類の品目」ってなに?

輸出入酒類卸売業免許

輸出酒類卸売業免許は、自社が直接海外にお酒を輸出できます。輸入酒類卸売業免許は、自社が直接海外から輸入したお酒を国内の酒類業者に卸売できます。

輸出酒類卸売業免許について 詳しくはこちらで解説しています。
→『「輸出酒類卸売業免許」の基礎知識
輸入酒類卸売業免許について 詳しくはこちらで解説しています。
→『「輸入酒類卸売業免許」の基礎知識

全酒類卸売業免許の要件

全酒類卸売業免許は共通する要件の他に、以下の要件を満たす必要があります。

お酒の免許に共通する要件についてはこちらで解説しています。
→「必ず事前確認!お酒の免許 取得の要件とは?

①免許可能件数(需給調整要件)

毎年、地域的需給調整を行うため各都道府県ごとに免許可能件数が決められます。

免許可能件数は、毎年9月1日に卸売販売地域内の各税務署の掲示板等や、国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp)『全酒類卸売業免許について』に掲載されます。

参考までに、東京国税局管内の令和5年度の免許可能枠と抽選の申し込み数は以下の通りとなっています。

都道府県名 免許可能件数 抽選対象申請書等の件数 (差し引き)
免許可能件数の残数
千葉県 3件 6件 0件
東京都 1件 43件 0件
神奈川県 1件 14件 0件
山梨県 1件 1件 0件

なお、すでに全酒類卸売業免許を持っていて、他の都道府県に販売場を移転する場合も、需給調整要件の対象となり、移転先の枠が空いていない限り、抽選の申し込みが必要です。

上記から、東京で新規や条件緩和で全酒類卸売業免許を取得したり、他の県から東京に販売場を移転することは非常に難易度が高いことが分かります。

②経験(経営基礎要件)

申請者は、以下のいずれかを満たす経験が必要になります。

1 酒類の製造業若しくは販売業(薬用酒だけの販売業を除く。)の業務に直接従事した期間が引き続き 10 年(これらの事業の経営者として直接業務に従事した者にあっては5年)以上である者、調味食品等の卸売業を 10 年以上継続して経営している者又はこれらの業務に従事した期間が相互に通算して 10 年以上である者。

2 酒類業団体の役職員として相当期間継続して勤務した者又は酒類に関する事業及び酒類業界の実情に十分精通していると認められる者。

3 申請等販売場が沖縄県に所在する場合の申請者等の経歴については、1に定める期間が 10年とあるのを3年と読み替えます。

法人として経験を満たす場合は、酒類の事業を開始した時期が分かる根拠資料(酒類販売免許通知書のコピーなど)があれば提出すると良いでしょう。

役員の1人が経験を満たす場合は、該当する役員の履歴書、職務経歴書で経験を有していることを説明します。
なお、ここでいう「役員」とは、法人登記簿に登記されいる取締役や業務執行社員のことであり、肩書だけの役員ではないことに気を付けましょう。経験を満たす役員は、常勤役員であることが求められるため、社外役員ではないことに注意しましょう。

お酒の免許申請における経験についてはこちらで解説しています。
→「お酒の免許 取得にはお酒の販売経験が必要?

③年間の取引数量が100kl以上であること

申請販売場における年平均販売見込数量(卸売基準数量)が、100kl (10万リットル)以上であることが要件となっています。

取引数量が100kl以上あることは、予定している仕入先と販売先からそれぞれ取引承諾書を取得することで証明します。取引承諾書とは「御社と酒類を取引しても良いですよ。」という内容の書類です。取引承諾書の詳細は後述いたします。

予定取引内容が仮に、洋酒のみで100klだったり、輸出入の予定だけで100klだったりすると、そもそも洋酒卸売業免許や、輸出入卸免許で対応できてしまうため、全酒類卸売業免許でなくてはならない理由がありませんので、不許可となる可能性が高いでしょう。前述した、他の免許で対応できないかという視点で税務署は審査しますので、日本酒、焼酎、みりんの国内への卸売の取引予定があることが重要になります。

全酒類卸売業免許の申請方法

申請書提出先

販売場の所在地を管轄する税務署に申請書を提出します。

申請書類の提出書類

抽選後~6月30日までの申請の場合

10月の抽選以降、本年度の申請枠がまだ空いている場合は、翌年6月30日まで申請が可能です。
この期間の申請の際は、以下の①~⑨の申請書類を提出します。

書類名
申請書
酒類販売業免許申請書
申請書次葉1「販売場の敷地の状況」
申請書次葉2「建物等の配置図」
申請書次葉3「事業の概要」
申請書次葉4「収支の見込み」
申請書次葉5「所要資金の額及び調達方法」
添付書類 酒類販売業免許の免許要件誓約書
申請者の履歴書(法人の場合には、役員の履歴書)
定款の写し
契約書等の写し
地方税の納税証明書
最終事業年度以前3事業年度の財務諸表
土地及び建物の登記事項証明書
免許申請書チェック表

7月1日~9月30日までの申請の場合(抽選の申込)

7月1日~9月30日までの申請は、翌年度の申請の扱いとなりますので、抽選を申し込む必要があります。抽選の申し込みは、毎年9月1日~9月30日までの1か月間のみとなります。

この期間に申請する際は、上記の書類のうち①次葉1、2④⑨の書類のみを提出します。10月の抽選の結果、審査を受けられることになったら残り①次葉3、4、5②③⑤⑥⑦⑧の書類を提出します。

なお、7月1日から8月31日までに申請書を提出している場合は、9月1日に受理したものとして扱われますので、追加での抽選の申し込みは不要です。

書類名
申請書
酒類販売業免許申請書
申請書次葉1「販売場の敷地の状況」
申請書次葉2「建物等の配置図」
添付書類 定款の写し
免許申請書チェック表

抽選・審査順位の決定

10月上旬以降に税務署から公開抽選の実施日の案内が文書で届きます。
10月下旬に公開抽選が実施されます。公開抽選には出席する必要はありませんが、希望する場合は、出席し申請者自身が抽選に参加することも可能です。

抽選の結果は数日以内に文書で届きます。決定した審査順位に従い、審査が開始されます。

審査順位が免許可能件数の範囲内となったら提出する書類

審査対象となったら、文書で審査開始通知書が届きます。
審査開始通知の日から2週間以内に残り①次葉3、4、5②③⑤⑥⑦⑧の書類を提出します。

書類名
申請書 酒類販売業免許申請書
申請書次葉3「事業の概要」
申請書次葉4「収支の見込み」
申請書次葉5「所要資金の額及び調達方法」
添付書類 酒類販売業免許の免許要件誓約書
申請者の履歴書(法人の場合には、役員の履歴書)
契約書等の写し
地方税の納税証明書
最終事業年度以前3事業年度の財務諸表
土地及び建物の登記事項証明書
申請書の書き方については、こちらで解説しています。
「酒類販売業免許申請書」作成方法 徹底解説

期間と費用

全酒類卸売業免許の標準審査期間は2か月です。
登録免許税は9万円です。免許交付時に税務署に納付します。

免許取得までの期間、費用についてはこちらで解説しています。
→ お酒の免許 取得の期間はどのくらい? / お酒の免許 取得の費用はどのくらい?

全酒類卸売業免許の申請に必要な書類

酒類販売免許に共通する書類の他に、以下の書類が必要となります。

酒類販売業免許の添付書類についてはこちらで解説しています。
→「お酒の免許申請に必要な添付書類とは

取引承諾書 

予定している仕入先と販売先からそれぞれ100klを超える分の取引承諾書を取得します。取引承諾書とは「御社と酒類を取引しても良いですよ。」という内容の書類です。

全酒類卸売業免許の取引承諾書には、相手方に予定取引数量も記載してもらうと審査がスムーズになります。
審査を行う税務署は、相手方の過去の取引数量を確認し、記載されている数量の取引能力があるかを審査することになります。前年度の取引実績が少ない相手から取引承諾書を取得すると、仮に多い数量が記載されていたとしても前年度の取引数量しか認めてもらえないため、なるべく取引実績が多い相手から入手するようにすると審査がスムーズに行くでしょう。

仕入先から取得する取引承諾書のサンプル
販売先から取得する取引承諾書のサンプル
取引承諾書の取得方法や記載内容についてはこちらで解説しています。
→「お酒の免許申請に必要な取引承諾書とは?

まとめ

・全酒類卸売業免許はすべてのお酒を卸売りできるオールマイティな卸売業免許

・免許可能件数や、経験、予定取引数量など、取得の難易度が非常に高い

・毎年10月に抽選がある。抽選の申し込みは9月の1か月間のみ

・条件緩和や他県からの販売場の移転でも抽選が必要

・申請が難しい場合は、他の卸免許で対応できないか事業スキームを検討してみる

・全酒類卸売業免許でなければならない取引が無いと許可が下りない

・申請販売場の所在地にこだわりが無い場合は、枠が空いている都道府県での取得も検討してみる

・取引承諾書を取得した相手の過去の取引実績も審査される