飲食店と同一場所で酒類販売業免許を取得する方法

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近年、飲食店がデリバリーやテイクアウトなどで、お酒を小売販売するケースや、酒販店が試飲カウンターを設けたり、角打ちスタイルにするケースが増えています。

この記事では飲食店を営業しながら、デリバリーやテイクアウト等で酒類を小売販売したい方向けに、どのように申請すればよいか、法的な考え方や、店舗のスタイル別に申請のポイントを解説していきます。

目次

その場で酒類を飲用に供する営業は飲食店営業許可が必要

まず、前提として、お酒をその場で飲用に供する飲食営業をするためには、食品衛生法に基づく営業許可を受ける必要があります。(食品衛生法第55条)

レストランや居酒屋、バー等はこの許可で営業しています。また、酒販店が有料でグラス等に注いで試飲させる場合も、同様に飲食店営業許可が必要です。

店内で飲んでもらう提供方法だけなら酒類販売免許は不要です。(酒税法 第9条1項 ただし書き)

酒類の販売業をしようとする者は、販売場ごとにその販売場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならない。ただし、酒場、料理店その他酒類をもっぱら自己の営業場において飲用に供する業については、この限りでない。

酒税法 第9条1項

居酒屋など、飲食店営業許可で営業している店舗が、瓶ビールを提供する際に栓を抜いて提供したり、焼酎のボトルを持ち帰らせず、お店にキープしてもらうのはこのような規定があるからです。

デリバリーやテイクアウトでお酒を売るなら酒類販売業免許が必要

飲食営業をしながら、お酒の配達や持ち帰り販売もしたい場合はどうすれば良いでしょうか?

この場合は、保健所の飲食店営業許可に加えて、税務署長から酒類販売業免許を受ける必要があります。(酒税法 第9条1項)

酒類の販売業をしようとする者は、販売場ごとにその販売場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならない。

酒税法 第9条1項

なお、販売場でテイクアウトやデリバリー等ですべてのお酒を小売りする場合は、一般酒類小売業免許を取得することになります。

一般酒類小売業免許の詳しい説明はこちら
「一般酒類小売業免許」の基礎知識

飲食店の在庫と酒販店の在庫を完全に分ける必要がある

酒税法の規定(需給調整要件)により、飲食店の在庫と酒販店の在庫を、仕入から販売まで、明確に区分する必要があります。

飲食店として仕入れた在庫は、飲食提供にしか使用することが出来ず、酒販店として仕入れた在庫は、物販用にしか使用することが出来ません。

つまり、飲食事業者が酒類販売免許を取得したとしても、飲食店と酒販店の在庫の融通はできないということになります。これは、やろうとしている事業のビジネスモデルの根幹に直結する非常に重要な点ですので必ず覚えておきましょう。

その理由は、酒税法の解釈上、飲食店は”消費者”として扱われていることに起因します。
酒税は、酒類の消費に着目して消費者に負担を求める間接税という仕組みなっていて、グラスに注いだり、飲んだりする人が購入することで酒税が負担された(回収できた)という考え方をしています。その場で飲用に供する飲食業者は、自分達では飲みませんが、「栓を抜いてグラスに注ぐ」=「消費している」ことから、“消費者”と同じ扱いになっている訳です。

酒税法の解釈上、飲食業者は”消費者”

そうすると、飲食店が在庫として持っている酒は、酒税が負担された(回収できた)お酒ということになります。

一方で、酒類販売業者が在庫として持っているお酒は、消費者に販売する前のため、まだ消費者が酒税を負担していない(回収できていない)お酒ということになります。

まとめると、消費者から酒税を回収済みのお酒と、消費者から酒税を回収前のお酒をはっきりと区分して管理しないと、間接税の仕組みが壊れてしまうので、飲食店と同一場所で酒類販売を行う場合は、仕入から販売まで在庫を完全に分ける必要があるという訳です。

酒類販売業免許取得の目的が、「飲食店として仕入れた酒類を小売販売したい」や、「酒販店として卸価格で安く仕入れて飲食店で飲用に供したい」だったりすると、前述の通り在庫の融通が出来ないため、免許を取得してもこれらの目的が達成できません。その場合はビジネスモデルを一から見直し、免許取得を再検討する必要があるでしょう。

飲食店の仕入は小売業者から、物販用の仕入は卸売業者から

飲食業者が酒類販売業免許を取得した場合、飲食業の仕入と酒販店の仕入を明確に区分する必要があります。

先ほど、酒税法では、飲食店は“消費者”と同じ扱いになると説明しましたが、酒税法第9条の規定により、消費者(飲食店)に販売できるのは、小売免許を持っている酒販業者に限られます。

一方、酒販店に販売できるのは、卸売免許を持っている酒販業者に限られます。

もし、酒販店のお酒の仕入先を、飲食店の仕入先と同じ小売店にしようと考えていた場合、酒販店は小売店から仕入れは出来ませんので、仕入先の見直しが必要になります。

酒販店の仕入先は、卸売免許をもっている酒販業者に限定されることを必ず覚えておきましょう。

この点もビジネスモデルを考える際に非常に重要なポイントとなります。

※なお、酒造メーカーは、自社製品については小売も卸売も出来るため、小売免許や卸売免許が無くても飲食店や酒販店に販売することが出来ます。

条件を満たせばお酒を提供する飲食店も酒類販売業免許を取得できる

酒類販売業免許の申請では、原則、酒場、旅館、料理店等酒類を取り扱う接客業者でないこと、申請販売場が酒場、料理店等と同一場所でないことが条件となっており、該当すると免許が下りない扱いになっています。

酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため、酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合に当たらない。
酒場、旅館、料理店等酒類を取り扱う接客業者でない。

酒税法10条11号関係(需給調整要件)

申請販売場が取締上不適当と認められる場所でない。
申請販売場が酒場、料理店等と同一場所でない。

酒税法10条9号関係(場所的要件)

しかし、申請の際に、飲食店と酒類販売店それぞれの区画、仕入先、お酒の保管場所、代金決済の方法、売上帳簿の作成方法などを税務署に説明し、飲食店と酒類販売店のお酒の仕入から売上まですべて明確に区分して管理できることを証明できれば、例外的に免許をうけることが可能です。

飲食店で酒類販売免許を申請するための具体的な条件とは

ここからは、具体的にどのようにすれば申請が通るのか、条件を解説していきます。

仕入帳簿が区分できる

飲食店と酒販店の仕入先が異なれば、仕入先が区分できるので仕入先が異なる場合はその旨を税務署に説明しましょう。

仕入先が同じ場合もあるかと思います。相手が酒造メーカーだったり、小売免許と卸売免許どちらも持っているケースです。この場合は、飲食店に小売した伝票と、酒販店に卸売した伝票を分けて発行してもらうことで、仕入先を明確に区分できることを説明しましょう。

お酒の保管場所が区分できる

飲食店併設の申請の際はお酒の保管場所が審査されます。飲食店用のお酒の在庫は、飲食店区画内に、酒販店の在庫の保管場所は、申請販売場(酒販店)内に保管する必要があります。例えば、申請販売場(酒販店)内の冷蔵庫等に、飲食店用のお酒も保管することは認められません。

お酒の保管場所については、酒類販売業免許申請書 次葉2 建物等の配置図でレイアウト図面に、飲食店用のお酒の保管場所と酒販店のお酒の保管場所をそれぞれ図示することで説明しましょう。

売上帳簿が区分できる

売上帳簿についても、飲食店のお酒の売上と、酒販店のお酒の売上は明確に区分する必要があります。

レジにPOS機能がある場合は、商品マスター登録の際に、飲食店の売上と物販の売上を部門別に分けて登録しておき、売上帳簿が、飲食店と酒販店で明確に区分できれば1つのレジでも申請が可能です。計算機能のみのシンプルなレジの場合は、飲食店用とは別に酒販店用のレジを用意するように指導される場合があります。

最近は、様々な機能が搭載された「POSレジ」が多く普及しているため、レジ機能で部門別に売上が区分できれば1台でも申請が可能となっています。なお、申請の際には、飲食店として販売した際のレシートと、酒販店で販売した際のレシートのサンプルを、説明資料として税務署へ提出を求められますので準備しておきましょう。

酒販店のレシートには、例えば「テイクアウト」や「T.O」など、物販であることが分かる旨をレシートに表示すると良いでしょう。

飲食店の区画と販売場(酒販店の区画)が明確に区分できる(場所的要件)

酒税法10条9号関係(場所的要件)では、申請販売場が酒場、料理店等と同一場所でないことと定められており、酒類販売免許申請書 次葉2 建物等の配置図で、店舗の平面図に、飲食店の区画と、販売場(酒販店)に線を引いて提出します。

 以前は、税務署から飲食店と販売場を壁で仕切ることを求められ、内装工事をしなければ許可が下りないようなケースもありましたが、現在はそこまで求められることは少なくなっています。

ここからは、オペレーションの違いによる4つのパターンとポイントを紹介します。

①飲食店内に陳列スペースを設けるパターン

これは、比較的スペースに余裕があり、飲食店と物販スペースを明確に区分できる場合です。陳列棚を設けて、お客さんが商品に手を触れられるようにして、自らレジに商品をもってくるオペレーションにしたい場合がこのケースに該当します。

この場合、次葉2では、レジを含む物販コーナーを赤枠で囲い申請します。

②飲食店内に陳列スペースを設けないパターン

①とは異なり、店舗のスペースに余裕が無い場合、陳列場所を設けず、レジで注文を受け、手渡しする方法があります。この方法が、最も省スペースで申請が可能です。

小規模なバーや、レストラン、居酒屋などで、客席を潰してまでして陳列場所は設けられないという場合は、このパターンを検討すると良いでしょう。

③酒販店で試飲カウンターを設けたいパターン

あくまでも酒販店がメインであり、酒販店内に小さなカウンターを設けて有料試飲を行いたい場合は、試飲カウンター部分のみを除いた部分を販売場として申請します。

なお、試飲の際に有料でグラスに注いで提供する場合は、保健所の飲食店営業許可も必要です。

④酒販店で、軒先にイートインスペースを設けたいパターン(角打ちスタイル)

あくまでも酒販店がメインであり、酒販店内にイートインスペースを設ける場合、イートインスペース部分を除いた部分を販売場として申請します。 なお、お店がグラスを貸し出す場合は、保健所の飲食店営業許可も必要です。

飲食店と同一場所で酒類販売業免許を申請するには、様々なポイントがあることや、通常よりも申請のハードルが高いことがお判りいただけましたでしょうか。

一口に飲食店併設といっても、たくさんのケースがありますので、申請を検討している方は、事前に管轄の酒類指導官または専門の行政書士にレイアウト図面を見せながら具体的に相談すると良いでしょう。

まとめ

・酒類をグラスなどで提供する営業は保健所の飲食店営業許可が必要

・飲食店がお酒のデリバリーやテイクアウトをしたい場合は、一般酒類小売業免許が必要

・飲食店と酒販店の在庫の融通はできない

・飲食店の仕入は小売業者から、物販用の仕入は卸売業者から仕入れなければならず、飲食店の仕入伝票と、酒販店に仕入伝票を分けて管理する

・飲食店用のお酒の在庫は、飲食店区画内に、酒販店の在庫の保管場所は、申請販売場(酒販店)内に保管する

・飲食店の区画と販売場(酒販店の区画)が明確に区分する必要がある