2024年 酒類業者が使える補助金の基礎知識

酒類業者が使える補助金 補助金

たくさん補助金がある中で、お酒の事業にどの補助金が使えるのか悩んでいる人も多いのではないでしょうか。

この記事では、これから補助金を検討しようと考えている人向けに、助成金との違いや事前にしっておきたい注意点、代表的な補助金と活用事例など、酒類業者が使える補助金の基礎知識を解説しています。

目次

補助金と助成金の違い

補助金と混同しやすいのが助成金。どちらも融資とは違って返済不要という点が共通していますが、補助金の申請を検討している人は、両者の違いを理解しておきましょう。

助成金は、雇用調整助成金やキャリアアップ助成金など、雇用の安定や働きやすい労働環境の整備などを目的として、厚生労働省や自治体が実施している制度です。

制度の導入や賃金アップなど、一定の支給要件を満たしていればほぼ必ず受給できます。また、随時申請を行うことができる・公募期間が長いなどの特徴があります。

一方で補助金は、中小企業が業績向上のために取り組む新事業や新サービスの開発などを支援することを目的として、経済産業省・中小企業庁や自治体が実施している制度です。

補助金は国の政策実現が目的ですので、国の政策に沿った優れた事業計画であるかどうかが審査されます。助成金と違って、要件を満たしていても支給されるとは限らず、審査の結果採択されることが条件となります。採択率は約20%~80%程度と、補助金の種類や公募回によって異なります。

申請についても、公募開始から申請締切までが3か月程度と限られた期間であることが多いです。 補助金は助成金に比べて採択率が下がりますが、受給できれば大きなメリットとなります。中には比較的採択率が高い補助金もありますので、活用できるようなら検討してみるとよいでしょう。

補助金はいくらもらえる?

補助金は設備投資などにかかった経費の全額を受け取れるわけではなく、経費の一部のみ受給することができます。

補助額は補助金によって異なりますが、例えばものづくり補助金なら補助額は100万円~最大5,000万円、補助率は1/2~2/3となっています。
(例)1,500万円の投資を行う計画で、補助率2/3の補助金を申請 ⇒補助額1,000万円

「補助金を受給できたとしても、投資金額の1/3~半分くらいは自腹で払う必要がある」と理解しておくとよいでしょう。

補助金の注意点

原則、交付決定後でないと発注できない

補助金申請は下記のような流れになっています。※補助金の種類や公募回によって異なります。詳細は各補助金の最新のスケジュールを確認してください。

補助金は原則、交付決定後でないと発注や支払いができません。

申請してから発注できるまで=交付決定を受けるまで数か月、長い場合は半年以上かかることもあります。その分事業の開始が遅れてしまいますので、補助金の申請スケジュールに事業スケジュールを合わせることができるか、計画段階で検討しておきましょう。

補助金は後払い

補助金は申請して採択されても、すぐに振り込まれるわけではありません。採択後、補助金額や対象経費の審査(交付申請)、支払った経費の証拠書類の審査(実績報告)といった手続きがあり、それらが承認されてようやく補助金額が振り込まれます。
※事前着手制度が認められている場合もあります。

補助金受給前に支払いを終える必要があるため、「補助金が入金されたら購入する」といったことができません。

支払いのための資金はあらかじめ自身で調達しておく必要がある点に留意しましょう。補助金が採択されてから入金されるまでの間の、つなぎ融資を受けられる金融機関もあります。

収益納付がある補助金も

補助金は受給後も数年にわたり実施した事業の成果を報告する必要があります。事業の成果として大幅な増益があった場合、補助額を上限として還付することを求められている場合があります。

「補助金ありき」の申請はNG

「ただで補助金がもらえるならこの事業をやろう」といった補助金ありきで作成しようとすると、無駄な投資になりがちです。投資額の1/2や1/3は自腹で支払う必要があるため、「絶対にやる」と元々決めていた事業で使うのがベストです。

自身(自社)に合った補助金の探しかた

ただ漫然と補助金を検索しても時間の無駄になってしまいますので、やろうとしている事業のスケジュールや金額、要件に合った補助金を狙って探しましょう。

J-Net21

独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21のサイトでは、全国の補助金や助成金などを検索できます。

「生産性向上・IT化」や「販路開拓」など分野を指定して検索できるほか、「DX」「SDGs」などフリーワードでも検索可能ですので、自身(自社)の事業に合った補助金の候補を絞りたいときに便利です。

J-Net21経営課題を解決する羅針盤 支援情報ヘッドライン

ミサラポplus

経済産業省・中小企業庁が運営するミラサポplusでは、補助金の活用事例を検索することができます。実際に採択された事業者の事例が掲載されており、既存事業の課題や補助金の活用方法とその成果などを詳しく知ることができます。

こちらは業種や従業員数でも検索することができるので、自身(自社)に近い状況の事業者がどのように補助金を活用したか、参考にできる部分も多いでしょう。

ミラサポplus 中小企業向け補助金・総合支援サイト

補助金によっては、ミサラポplusに会員登録のうえ同サイトで作成した「事業財務情報」の提出が必要な場合もあります。ミサラポplusに登録すると、自社の財務状況を分析できるローカルベンチマークを作成できるなどメリットもたくさんありますので、登録しておいてもよいでしょう。

酒類業者が使いやすい補助金5選

酒類業者向けの酒類業振興支援事業費補助金

酒類業界の振興を目的として国税庁が公募している補助金です。

日本産酒類の輸出拡大及び酒類業の経営改革・構造転換に向けて、酒類事業者による、日本産酒類のブランディング、インバウンドによる海外需要の開拓などの海外展開に向けた取組及び国内外の新市場開拓などの意欲的な取組を支援します。

令和6年度予算 酒類業振興支援事業費補助金
▶補助金額:【新市場開拓支援枠】50万円~500万円、補助率1/2または2/3
      【海外展開支援枠】50万円~1,000万円、補助率1/2

▶対象経費:展示会等出展費、通訳・翻訳費、マーケティング調査費、謝金、旅費など

▶活用事例:
【新市場開拓支援枠】
・ 食品とのペアリングに特化した商品や、地方産品の特性を生かした商品
・ 新たな原材料等を使用し、これまでにない特性を持たせた高付加価値商品の開発
・ 「伝統的酒造り」を差別化のポイントとした高付加価値商品の開発
・ テイスティング等の顧客体験を重視した販売形態の確立
・ データ分析等を用いた、顧客の嗜好に合致した商品の販売手法の導入
・AI技術等を活用した品質管理システムの導入

【海外展開支援枠】
・海外ニーズを踏まえ、強みを活かした海外展開をするための現地調査
・海外の嗜好に即した新商品開発、新規ブランドの立ち上げ
・酒蔵自体が観光化の取組を行うことによる、観光客の受け入れ整備や消費拡大につながる取組
・観光客が、酒蔵等で高付加価値な体験(酒造りや宿泊等)ができる受け入れ環境整備に向けた取組

対象者は、酒類業者または酒類業者を1者以上含むグループに限定されています。また、原則として酒類の商品開発等を目的とした事業が対象となります。

販路開拓に使用できる小規模事業者持続化補助金

小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者が販路開拓や生産性向上に取り組む際に使える補助金です。
小規模事業者持続化補助金の目的として、公募要領では下記のように記載されています。

小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更等に対応するために取り組む販路開拓等の取組の経費の一部を補助することにより、地域の雇用や産業を支える小規模事業者等の生産性向上と持続的発展を図ることを目的とします。

小規模事業者持続化補助金<一般型> 第15回公募 公募要領
▶補助金額:上限50万円~250万円、補助率2/3~3/4

▶対象経費:店舗改装、広告掲載、展示会出展費用など

▶活用事例
・<酒造店>慢性的な貯蔵品不足により需要に対応しきれていなかったため、熟成用貯蔵樽を購入し増産体制を構築、併せてホームページも作成し、販売機会の損失を解消。
・<酒造店>既存銘柄のパッケージリニューアルを行うとともに、パッケージデザインと統一した三つ折りパンフレットや販促ツールを作成。さらに展示商談会へ出展。
 ・<ワインショップ>高級ワインの販路拡大のためワインセラーを導入し、併せて自主財源でSNSでのPRやワイン情報サイトへの掲載などを実施、クリスマス・年末のセールに合わせてチラシを作成。
・ <酒販店>ターゲットである観光客の客単価アップのため、酒販店で新たに「角打ち」をはじめ、認知度向上のためのPR活動を実施。
・ <酒販店>街灯が少ない商店街に位置する酒販店において、夜間の集客力の向上のために店舗看板に証明を設置。

対象は常時使用する従業員が「商業・サービス業」の場合5人以下、それ以外の業種の場合20人以下と小規模事業者に限られています。

小規模事業者持続化補助金は、ここ最近は50%~60%台で推移しており、他の補助金に比べて採択率が比較的高く申請しやすい補助金となっています。

経営革新のための設備投資に使えるものづくり補助金

ものづくり補助金と聞くと製造設備に使うイメージが大きいですが、正式には「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」という名称で、製造設備の他、サービス開発や試作品開発、生産性向上のための設備投資なども対象となります。 ものづくり補助金の目的として、公募要領では下記のように記載されています。

中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更(働き方改革や被用者 保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入等)等に対応するため、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行い、生産性を向上させるための設備投資等を支援します。

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金公募要領(17次締切分)
▶補助金額:上限100万円~5億円、補助率1/2~2/3

▶対象経費:機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、外注費、クラウドサービス利用料など

▶活用事例
・<酒造店>外国人に人気の発泡性日本酒への需要に対応するため、耐圧サーマルタンク、ガス飲料用充填機を導入し、新商品を開発。
・<ワイナリー>商品設計や品質管理の効率化のためにワイン分析装置を導入し、新商品の試作開発を実施。
・<酒造店>日本酒の品質を左右する工程において、既存設備が機能低下によりボトルネックとなっていたため、生産プロセスの改善と強化のために省エネルギー型のエクオス貫流式蒸気ボ
イラーを導入。良質な蒸し米の生産と労力削減を実現した。
・<酒造店>商品の品質向上のために、貯蔵工程においてネオサーマルタンクを導入。既存のタンクでは難しかった速やかな冷却が可能となったことで、お酒にフレッシュ感が加わりより高品質なお酒の製造を実現。

建物費や広告宣伝費は対象外となっていますので注意しましょう。また、後述するIT補助金では対象外となっているITツールやシステムも、ものづくり補助金なら申請できる場合があります。

ITツール導入に使えるIT導入補助金

IT導入補助金は、その名の通りITツールの導入にのみ使える補助金です。他の補助金と異なり、事務局に登録された「IT導入支援事業者」のサポートを受けながら申請・導入を行います。

IT導入補助金の目的として、公募要領では下記のように記載されています。

本事業は、中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更(働き方改革、被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイスの導入)等に対応するため、生産性の向上に資するITツール(ソフウェア、サービス等)を導入するための事業費等の経費の一部を補助等することにより、中小企業・小規模事業者等の生産性向上を図ることを目的とする。

IT導入補助金2024 公募要領 通常枠
▶補助金額:上限100万円~5億円、補助率1/2~2/3

▶対象経費:ソフトウェア購入費、導入関連費

▶活用事例:
・ECサイトを構築するためのITツールを導入し、自社オンラインショップを開設。
・労働時間管理のために勤怠管理ツールを導入、勤怠時間集計の作業時間の短縮と業務分担の向上を実現。

ITツールなら何でもよいというわけではなく、事前に登録されたツールのみ対象となっています。対象のITツールはIT導入補助金のホームページで確認することができます。また、IT導入支援事業者に指定されたITベンダーやサービス事業者も検索できます。

ITツール・IT導入支援事業者検索(コンソーシアム含む)

決済、会計、人事給与システムなど一般的なバックオフィス系のソフトウェアの他にも、酒類業者向けの販売管理システムや製造管理システムも対象となっています。

新規事業への設備投資に使える事業再構築補助金

事業再構築補助金は、既存の事業とは異なる新たな取り組みを行う事業者を対象とした補助金です。
事業再構築補助金の目的として、公募要領では下記のように記載されています。

新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業・業種転換、事業再編、国内回帰又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。

事業再構築補助金 公募要領(第11回)
▶補助金額:上限100万円~5億円、補助率1/3~3/4

▶対象経費:建物費(建築や内装工事など)や設備投資がメイン

▶活用事例
 ・<飲食店>飲食店を経営する会社が、事業の安定と販路拡大を目指し、醸造場の内装工事及び製造用設備を導入し、新たに発泡酒の製造・卸売を開始。
 ・<酒造店>日本酒・焼酎の製造を行っている酒造店が、国内需要の低下に対応するため、ウイスキー製造設備を導入し、新たに海外向けのジャパニーズウイスキーを製造。
 ・<酒造店>日本酒の製造を行っている老舗酒蔵が、既存の日本酒製造・販売事業との相乗効果を目指し、蔵を改修し甘酒をコンセプトとしたカフェをオープン。
 ・<酒類卸売業者>酒類卸売業者が、取引先支援と販路拡大のために、総菜製造用のキッチンを導入し、取引先の飲食店と共同開発した総菜をECサイトで小売販売を開始。

事業再構築補助金は、もともと新型コロナウイルス感染症の影響で売上が減少した事業者を支援する目的で創設された制度でしたが、コロナ対策としての役目を終え、今後は大幅に改定される可能性があります。

まとめ

・助成金に比べて補助金は審査があり、不採択の可能性もある

・補助金の注意点
 ①交付決定後でないと発注できない
 ②後払い
 ③収益納付の可能性
 ④「補助金ありき」の申請は無駄な投資になりやすい

・補助金の検索はJ-Net21やミラサポplusのサイトで可能

・酒類業者が使いやすい補助金5つ
 ①酒類業振興支援事業費補助金
 ②小規模事業者持続化補助金
 ③ものづくり補助金
 ④IT導入補助金
 ⑤事業再構築補助金