「自己商標酒類卸売業免許」の基礎知識

お酒の免許申請

自社オリジナルのお酒を委託製造(OEM)し、卸売するためには、自己商標酒類卸売業免許が必要となります。
「自己商標」というあまり聞きなれない名称で、申請の手引きにもほとんど詳しい説明が無いため、これから申請を検討しているけど、情報が少なくて困っている方も多いのではないのでしょうか?

この記事では自己商標酒類卸売業免許について詳しく解説します。

目次

自己商標酒類卸売業免許は「自己が企画・開発した商標または銘柄のお酒」を卸売できる免許

平成24年以前は、オリジナル銘柄の日本酒や焼酎、ビールを卸売する場合、全酒類卸売業免許やビール卸売業免許を取得する必要がありました。全酒類卸売業やビール卸売業免許は取得のハードルが非常に高く、一般企業が自社のオリジナルのお酒を企画して、卸売りすることはほとんど不可能でした。

そこで、平成24年、需給調整の緩和により、「自己商標酒類卸売業免許」が新たに設定されました。もともとは米農家やぶどう農家などの農業者を想定していたものですが、現在は、様々な事業者が自己の商標を使用したお酒を発売するなど、農業者以外の業種でも広く取得されています。

自己商標酒類卸売業免許は、自己が企画開発した商標または銘柄のお酒であれば、どの品目でも卸売することができます。品目(清酒、ビール、果実酒、ウィスキー等)には制限がありません。

また、自己商標酒類卸売業免許は一度免許を取得した後は、自己が企画開発した商標または銘柄のお酒であれば別の商品であっても新たな申請を経ずに卸売することができます。

この場合、新たなオリジナル商品を開発したら、「自己が企画・開発した商標または銘柄」であることを証明できる証拠書類を保管しておきましょう。

「自己商標」とは

まず、「自己商標」の定義について確認しましょう。

商標とは、事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するネーミングやマーク(識別標識)のことを指します。

銘柄とは、商品名やブランドのことを指します。

自己商標酒類販売免許での「自己商標」とは、申請者が自ら商品の商標または銘柄を企画・開発したお酒という意味になります。
ここからは「自己が企画・開発した商標または銘柄」のことを「自己商標」と呼んでいきます。

申請者本人が自ら企画・開発することが必須条件

「自己商標」と言えるためには、商標または銘柄は必ず、自己(申請者本人)が企画・開発する必要があります。 自己が企画・開発したかどうかは、「オリジナルの商標または銘柄を、この世に生み出したのは誰か」を確認しましょう。それが申請者本人であれば、「自己商標」になります。

「自己商標」に該当する例として、

・アパレル会社が、自社が企画したアパレルブランドの商標をラベルに使用したお酒
・ぶどう農家が自己が命名した農園名やロゴを銘柄名やレベルに使用したワイン
・歌手が自分が作曲した曲名を銘柄に使用したお酒
などが挙げられます。

これらは、他人(他社)ではなく、自分たちが自ら商標または銘柄を企画・開発している点が共通しています。

「自己商標」に該当しない例として、

・他人(他社)から版権を借り受け(譲り受け)、自社の商品として商品化する場合
・他人(他社)が開発した商標を、その開発者から委託を受けて、商品化する場合
・他人(他社)が開発した商標を譲り受け、自社で商標登録した場合
などが挙げられます。

これらは、自分達ではなく、他人(他社)が商標または銘柄を企画・開発している点が共通しています。

一見分り辛いのですが、自己がその商標または銘柄を企画・開発したか(開発者本人か)で判断し、自分達が自ら企画・開発していない場合、「自己商標」にはならないということを覚えておきましょう。

その他、すでに他人が商標登録しているものは、自己が企画・開発したとしても、自己商標になりません。銘柄や商標を企画・開発する際には、すでに商標登録済みではないか事前に確認すると良いでしょう。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を使うと、商標を無料で閲覧することができます。

共同開発の場合も自己商標になる

中には、酒造メーカーとコラボしたり、複数の事業者で商標または銘柄を共同開発することもあると思います。

共同開発の場合でも、そのメンバーとして商標または銘柄の企画・開発に携わっていることが証拠書類等で説明できれば、「自己商標」と認められる場合があります。

販売したいお酒が「自己商標」と言えるかどうか判断に迷うときは、酒類指導官がいる管轄の税務署や専門の行政書士に相談するとよいでしょう。

一般消費者や飲食店に販売したいときは小売免許が必要

自己商標卸売業免許は卸免許のため、一般消費者や飲食店に販売することができません。販売相手は酒類販売免許を持っている業者に限られます。消費者や飲食店に販売したい場合は、別途、酒類小売業免許が必要です。

販売したい商品が「自己商標」のお酒であっても、販売したい相手が消費者・飲食店のみで卸売の予定がない場合は、自己商標卸売業免許ではなく小売業免許のみを取得することになります。

「卸売も小売も両方したい」という場合は、自己商標卸売業免許と小売業免許の両方を取得する必要がありますので覚えておきましょう。

小売業免許と卸小売業免許の違いについて 詳しくはこちら
「小売業免許」と「卸売業免許」の違いって何?

自己商標酒類卸売業免許取得のための要件

自己商標酒類卸売免許の申請には大きく4つの要件があります。自己商標酒類卸売業免許の取得を考えている場合は、要件を満たしているか事前に確認しましょう。

酒類販売業免許申請の4つの要件について 詳しくはこちら
必ず事前確認!お酒の免許 取得の要件とは?
酒類販売業免許申請で必要な経験について 詳しくはこちら
お酒の免許 取得にはお酒の販売経験が必要?

自己商標酒類卸売業免許の申請に必要な書類

自己商標卸売業免許の申請にあたっては、通常の添付書類の他に次の書類も準備します。

商品の企画書(議事録)または商標登録証自己(自社)が企画したことがわかる書類または商標登録証(商標登録している場合)
ラベル案
製造委託契約書または見積書製造委託の条件について記載があるもの
取引承諾書買ってくれる予定の酒類販売業者から取得したもの

商品の企画書(議事録)または商標登録証

自己商標であることを証明する証拠書類となります。この申請で一番肝になる書類です。

商品の企画書(議事録)を提出する場合、自らが商標または銘柄を企画・開発した本人であることを第三者に説明する内容となっている必要があります。単なる商品説明やコンセプトの説明だけでは不十分で、いつ、誰が、どのような経緯で開発したのか、事実を明確に記載しましょう。

商標登録をしている場合は、商標登録証のコピーも提出しましょう。商標登録は酒類販売免許申請時には必須ではありませんが、トラブル防止のためには登録しておいた方がよいでしょう。

ラベル案

企画書(議事録)で説明した商品のラベル案を提出します。自らが企画・開発したした銘柄または商標を用いたラベル案を作成しましょう。申請の段階では、商品が完成している必要は無く、案で構いません。

製造委託契約書(見積書でも可)

メーカーと交わした契約書を添付します。または、製造委託費用の見積書でも構いません。
契約内容に、商標の権利や独占販売権は申請者が持つことを織り込んでおくと審査がスムーズにいくでしょう。

取引承諾書

酒類販売業者から取引承諾書を取得し、申請書に添付します。
「貴社が企画開発した商品を取引することを承諾します」といった旨の承諾書を取引先から取得します。

取引承諾書の記載内容や取得方法について 詳しくはこちら
お酒の免許申請に必要な取引承諾書とは?
その他の添付書類について 詳しくはこちら
お酒の免許申請に必要な添付書類とは

申請のタイミングは委託先のメーカーが決まったら開始可能

「自己商標酒類卸売業免許をどのタイミングで申請すればよいかわからない」と迷う人も多いのではないでしょうか。

自己商標酒類卸売業免許の申請では、前述の通り、メーカーから提出してもらう書類が必要となるため、委託先のメーカーが決まってからでないと申請が出来ません。

委託先のメーカーが決まれば、書類の依頼も出来るため、申請が進められます。

自己商標酒類卸売業免許の申請の準備の際には、商品企画と同時に、メーカー探しも早めに進めるとスムーズに行くでしょう。

また、税務署の審査に2か月を要するため、逆算して、販売を開始したい日から2か月以上前から申請を開始すると免許取得後スムーズに販売を開始できます。

自分で申請するか迷っている人は、こちらを参考にしてください。
酒販免許は自分で申請or行政書士に依頼どちらがいい?

まとめ

・自己商標酒類卸売業免許とは、「自己(自社)が企画・開発した商標または銘柄」のお酒に限り卸売できる免許で、扱えるお酒の品目に制限はない

・「自己商標」に該当するかどうかは、自己が商標または銘柄を企画・開発したか(開発者本人か)で判断し、自己が自ら企画・開発していない場合、「自己商標」にはならない

・一般消費者や飲食店にも販売したいときは、別途小売業免許が必要

・自己商標酒類卸売業免許の申請の際には、第三者に対して自らが商標または銘柄を企画・開発した本人であることを説明できる企画書などを提出する必要がある

・自己商標酒類卸売業免許申請のタイミングは委託先のメーカーが決まったら開始可能